酵母

最終更新日:2021/03/17  

 

酵母は、5~10㎛(マイクロメートル)の単細胞生物です。

 

ワイン造りで使われる酵母は「サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)」と呼ばれる酵母です。

 

この酵母は、ワイン以外の酒造やパンなどの食品の製造にも広く使われており、「イースト(yeast)」と呼ばれているものは基本的にサッカロマイセス・セレビシエ(以下セレビシエ)を指します。

 

セレビシエは出芽酵母とも呼ばれ、出芽によって増殖します。

 

酵母の増殖は酸素や栄養が十分ある環境で促進され、低温や酸、アルコール、亜硫酸によって活動が弱まります。

 

 

酵母がワインに及ぼす効果

 

酵母は、嫌気的(酸素を含まない)環境で糖をアルコールと二酸化炭素に分解するアルコール発酵を起こします

 

酵母は、まずブドウに含まれる糖を取り込みピルビン酸を生成します。その後、酵素の働きでピルビン酸から二酸化炭素が取り出され、アセトアルデヒドになります。そして、アセトアルデヒドに水素が結合することでエタノールが生成されます。

 

 

糖 → ピルビン酸 → アセトアルデヒド → エタノール

          → 二酸化炭素

 

 

また、アルコール発酵によってアルコールや二酸化炭素以外に様々な微量の副産物を生成します。

 

さらに、酵母が出す酵素もブドウに含まれる香りの前駆体を分解し、ワインの華やかな香り生み出します。

 

このように、酵母のアルコール発酵や酵母由来の酵素による代謝は様々な物質を生み出しワインの香味を豊かにします

 

酵母が作り出す香り物質には、エステル、アルデヒド、ケトン、脂肪酸などがあり、揮発性ではないグリセロールや酢酸、コハク酸は味わいに影響を与えます。

 

また、酵母のアルコール発酵によってワインの色調を良くする効果もあります。例えば、アルコール発酵によって生じるアセトアルデヒドやピルビン酸はアントシアニンと結合してワインの色調を安定させます。

 

酵母は通常、活動を終えると沈殿し、澱となります。その澱となった酵母とともにワインを熟成させると、酵母の自己分解が始まります。そして、自己分解によってワインにアミノ酸などの香味成分が溶け込みます。このように、澱となった酵母はワインと熟成させることで香味を複雑にする効果があります

 

 

培養酵母

 

現在、ワイン造りにおいて、培養酵母が広く使われています。

 

培養酵母とは、発酵タンクの中の酵母から優秀なセレビシエ種の株を選抜し、純粋培養し、フリーズドライで乾燥状態にしたものです。

 

現在たくさんの種類の株が流通しており、生産者のスタイルや環境、ブドウの品質などに合わせて選択することができます。

 

培養酵母は、株によって以下のような特性の違いがあります。

 

・アルコール耐性:通常アルコール濃度15%程の耐性がある

・発酵能力:発酵スピードや発酵効率

・温度耐性:低温や高温下での発酵力

・亜硫酸耐性:甘口ワインなど亜硫酸を多く添加するワイン製造で特に重要

・芳香成分の生成力 :香りの前駆体を分解する酵素の量

・揮発酸など副産物の生成量

・キラー活性:他の酵母を殺す能力で、不要な酵母の増殖を防ぐ

 

 

自然酵母

 

培養酵母を添加せず、自然酵母の力だけでワイン造りを行う生産者も多くいます。もちろん、培養酵母が流通する前はこちらの方法が主流でした。

 

自然酵母は畑の土壌から様々な種類の酵母が昆虫や空気にのって運ばれ、ブドウに付着します。

 

ブドウに付着する酵母の量や種類は畑によって異なり、その違いがワインに独自の個性を生む場合もあります。また、自然酵母はブドウ栽培時の農薬や化学肥料の使用によって減少します。

 

一般的に、ブドウに付着している酵母の量はそれほど多くありません。

ワインの発酵に寄与する酵母には、ブドウに付着した酵母以外に、収穫時や輸送時の道具や容器、ワイナリーの設備に付着した酵母も含まれています。

 

そして、果醪に含まれるそれら自然酵母の中でセレビシエ種は極わずか(1%程)です。それゆえ、培養酵母を添加する方法とは発酵の進み方が異なります。

 

まず、発酵初期には非セレビシエ種(クロエッケラ・アピキュラータなど多種類)の酵母群が増殖します。その間、わずかに存在するセレビシエ種は微量のアルコールを生成し続けます。

 

そして、アルコール濃度が5%程になるとアルコール耐性を持たない非セレビシエ酵母が減少し、アルコール耐性を持つセレビシエ優勢の環境に変化します。その後は、セレビシエ酵母によるアルコール発酵が一気に加速します。

 

このように培養酵母に頼らない発酵では、アルコール濃度が低い発酵初期には非セレビシエ酵母が増殖します。そして、その非セレビシエ酵母がさまざまな香味物質を生み出すことでワインに複雑さや個性を与えます。

 

一方で、傷んだブドウなどには酢酸菌などの不要な菌や酵母が多く付着しており、それらが増殖し過ぎることでオフフレーバーに繋がる恐れもあります。

 

それゆえ、培養酵母を添加しない自然酵母による発酵には、特に健全なブドウを使う必要があります

 

 

参考

・WINE SCIENCE The Application of Science in Winemaking / Jamie Goode

・The Oxford Companion to Wine / Jancis Robinson

・日本ソムリエ協会教本 2020