亜硫酸(二酸化硫黄)

最終更新日:2021/03/14  

 

亜硫酸は、ワインの酸化や微生物の汚染を防止するために添加される物質で、二酸化硫黄(SO2) が水に溶けた状態のものを言います。

 

亜硫酸は、ボンベ入りの液体亜硫酸を吹き込んだり、ピロ亜硫酸カリウムやピロ亜硫酸水素塩などの塩類を溶かすことで添加します。かつては硫黄を燃やして二酸化硫黄を発生させ、それを樽に吹き込む方法が採られていました。

 

亜硫酸はまた、酵母の発酵で生み出される副産物でもあります。通常5~15mg/lの亜硫酸が酵母によって産出されると言われています。それゆえ、亜硫酸ゼロのワインは基本的にあり得ないとも言えます。

 

 

亜硫酸の効果

 

亜硫酸がワインに及ぼす効果として以下のような点が挙げられます。

 

酸化防止効果

亜硫酸は、自身が酸素を吸収する還元剤であると同時に、ラッカーゼやチロシナーゼなどの酸化酵素を阻害する効果もあります。

酸化酵素は、ブドウのポリフェノールを酸化させ色を褐変させます。酸化酵素は、特に傷んだり腐敗のあるブドウに多く存在しています。

それゆえ、大量生産の選果があまいブドウや遅摘みや貴腐のブドウなどにはより多くの亜硫酸が必要になります。

 

殺菌効果

亜硫酸は、ワインに悪影響を及ぼす菌や酵母の繁殖を防ぐ効果を持ちます。

それによって、ワインのオフフレーバー(不快な香り)や腐造を防ぐことができます。

 

清澄効果

亜硫酸は、ブドウのたんぱく質やタンニン、色素成分などと結合し沈殿することで果汁を清澄させる効果があります。

また、アセトアルデヒドと結合することで、アセトアルデヒドによる酸化臭を無臭化する効果もあります。

 

抽出促進効果

亜硫酸の添加によって、ブドウの果皮や種からのポリフェノール類の抽出が促進される効果があります。

 

 

遊離亜硫酸と結合亜硫酸

 

亜硫酸はワインの中で大きく3つの形態をとります。

 

遊離亜硫酸 (フリー亜硫酸)

 

遊離亜硫酸は、酸化防止や殺菌作用のある亜硫酸の形態で、分子状のSO2イオン状のHSO3が存在します。

 

 

SO2 :二酸化硫黄分子で、ガスの状態でワインに溶けている。酸化防止と殺菌効果を持つ。

HSO3: イオン状の亜硫酸で酸化防止効果は持つが殺菌効果は持たない

 

分子SO2の比率は遊離亜硫酸のうちのわずか数%で、その比率はワインのpHに影響されます。pHが高い(酸が低い)ほど少なく、pHが低い(酸が高い)ほどSO2の比率は多くなります。

それゆえ、亜硫酸の殺菌効果はpHが低い環境でより発揮されます

 

 

結合亜硫酸

 

結合亜硫酸は、アセトアルデヒドやたんぱく質、糖、ポリフェノールなどと結合した亜硫酸で、酸化防止や殺菌作用は持ちません

 

結合亜硫酸は、糖やたんぱく質、ポリフェノールと結合した場合は高温下で遊離亜硫酸に変化することもあります。一方でアセトアルデヒドとの結合は強固なため遊離しません。

亜硫酸

 

食品衛生法などで規制されている亜硫酸の量は、遊離亜硫酸と結合亜硫酸の総和である総亜硫酸の量です。

 

結合亜硫酸は酸化防止や殺菌作用を持たないため、亜硫酸の効果で重要なのは総亜硫酸中にどれだけ遊離亜硫酸が存在するかであると言えます。

 

 

 

亜硫酸添加を減らすには

 

亜硫酸の添加を減らすには以下のような点を注意することが効果的と言われています。

 

健全なブドウとクリーンな環境でワイン造りを行う

酸化酵素の少ない健全なブドウの使用と雑菌や野生酵母の少ない清潔な環境によって亜硫酸の添加を減らすことができます。

 

結合亜硫酸の元となる物質を減らす

清澄や濾過などによって、ブドウ果汁に含まれるタンパク質などを減らしたり、アセトアルデヒドの生成量の少ない酵母を選択するなど結合亜硫酸をつくる原因物質を減らすことで遊離亜硫酸の比率が増え、少量の亜硫酸添加でより効果が表れます。

 

適正なタイミング

亜硫酸を効率よく使う上で、酸化と微生物増殖のリスクが高いタイミング(ブドウの破砕後・発酵終了時・瓶詰め時)の添加が効果的とされています。

 

 

総亜硫酸量の上限

 

亜硫酸の使用量(総亜硫酸量)はさまざまな法律によって規定されています。

以下、その上限を記します。

 

食品衛生法

果実酒:350mg/l

 

EU

赤ワイン(残糖 5g/l以下):15omg/l

白・ロゼワイン(残糖 5g/l以下):200mg/l

赤ワイン(残糖 5g~45g/l程度):200mg/l

白・ロゼワイン(残糖 5g~45g/l程度):250mg/l

中甘口ワイン:300mg/l

甘口ワイン:350mg/l

極甘口ワイン(過熟・貴腐):400mg/l

 

赤ワインの方が上限が低いのは、赤ワインはポリフェノールを多く含みより強い抗酸化力を持つため、白ワインほど亜硫酸を添加する必要がないためです。

また、残糖の多いワインは亜硫酸が糖と結合することで遊離亜硫酸の比率が減り亜硫酸の効力が弱まるため、残糖が多いワインほどより多くの亜硫酸が必要になります。さらに、遅摘みや貴腐のブドウは酸化酵素が多く含まれているため、より亜硫酸の添加が必要になります。

 

 

参考

・WINE SCIENCE The Application of Science in Winemaking / Jamie Goode

・ワインの科学/清水健一

・日本ソムリエ協会教本 2020

・葡 萄 酒 醸 造 法 (10)/小 原 巌(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1915/58/11/58_11_1061/_pdf)

・EXPLANATORY MEMORANDUM/EUR-Lex.europa.eu(https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=PI_COM:Ares(2018)6604117&from=PT)