最終更新日:2021/03/11
近年、オーストラリアやアメリカ・カリフォルニアなどで毎年のようにニュースになる大規模な森林火災ですが、ワイン業界にとっても深刻な問題となっています。
特に広範囲で影響を及ぼす問題のひとつに「スモークテイント」があります。
スモークテイントとは、ワインに灰のような香味が付いてしまうことを言います。
この記事では、スモークテイントとは何なのか、原因や発生のメカニズムなど関連知識を解説します。
スモークテイントとは、直訳すると「煙汚染」です。
言葉の通り、山火事で出た煙によってブドウが汚染され、それがワインの香りや味わいに出てしまう現象です。スモークテイントの特徴として次のような香りが感じられます。
・濡れたタバコ
・化学薬品や薬
味わいにも灰をなめたような後味が感じられることがあります。
これらの香味は、明らかに本来のワインの魅力を壊してしまうものなのでワインの欠陥のひとつとされています。
スモークテイントの原因は煙ですが、ここでより詳しく煙でワインが汚染されてしまうメカニズムを解説します。
木が燃えることで揮発性のフェノール性成分(主にグアイアコール、4-メチルグアイアコール)が生じ、それらが灰とともにブドウの表皮に付着します。
注目すべき点は、ブドウ表皮に付着したフェノール性成分は、ブドウの皮から中に入り込むということです。
そして、それらフェノール成分はすぐにブドウの糖と結合してグリコシド化します。グリコシド化すると揮発性ではなくなるので、スモークテイントの香りは一旦影を潜め感じられなくなります。
ワイン醸造の過程で生じる酸などによりグリコシド結合が分解されます。それによって隠れていたフェノール性成分が表れ、スモークテイント独特の香味が感じられます。
さらに、このグリコシド結合の分解は、たとえワイン醸造中に起こらなくても、瓶詰された後やワインを飲んだ時の口中の酵素によって起こることもあります。
つまり、生産者にとってそのワインがスモークテイントに侵されているかどうかは、消費者が口にするまで分からないとも言えます。
そしてもう一つ重要な点が、ブドウが煙にさらされた時期です。
ワインがスモークテイントに侵されるかどうかは、ブドウの生育過程のどのタイミングで煙にさらされたかが重要と言われています。特に、ブドウの色付きが始まってから収穫までの期間(ブドウの糖度が高まる時期)が最も影響を受けやすくなります。上で見たようにグリコシド化しやすくなるからです。
このように、スモークテイントは付着した灰をただ洗い流すことで必ずしも防げるわけではないのです。
スモークテイントは、特にオーストラリアやカリフォルニア、チリなど暑く乾燥したワイン産地で多くの生産者を悩ます問題となっています。
今後、地球温暖化で暑く乾燥した地域が広がると、さらに森林火災の被害が拡大し、スモークテイントに悩まされるワイン生産者も増えることに繋がります。
現に年々その被害はひどくなっています。
例えば2019-2020年のオーストラリアの記録的な大規模火災では、その煙がニュージーランドや南米まで確認されたとの報告もあります。
火災で発生した広範囲に広がる煙は、人間やその他の生物の呼吸器疾患を生じさせるのはもちろん、上で見たようにワインにも大きな悪影響を与えます。それだけ森林火災は及ぼす被害が大きく、対策が急務な重大課題と言えます。
日本にいると山火事は台風など他の天災ほど実感の湧きにくいニュースですが、これから地球温暖化が進むことでより現実的な問題になってくるでしょう。
森林火災以外にも地球温暖化がワインに及ぼす問題はたくさんあります。ワインは、自然の産物であるブドウの質がそのまま表れる飲み物です。だからこそ、環境の変化がワインにも大きく影響します。
ワイン好きにとって環境問題への関心は絶対に失ってはいけないと思うのは私だけではないでしょう。
参考文献:Understanding Smoke Taint/Wine Spectator(https://www.winespectator.com/articles/understanding-smoke-taint-in-wine)