最終更新日:2021/03/18
耐久性や耐水性が高いオーク樽は古くからワインの貯蔵容器や運送容器として発達してきました。現在もワインの発酵や熟成容器として一般的に使用されています。
オーク樽は、木目からわずかに酸素が流入するため穏やかな酸化熟成によって酒質がまろやかに変化します。
また、樽材からの香味成分の溶出によりワインに複雑さや厚みを与えたり、樽由来のタンニンなどのフェノール類により色を強めたりワインの濁りを沈殿させる効果もあります。
オーク樽がワインに与える効果は、オークの種類や産地、生産者、樽のサイズ、樽内部のロースト具合などによって異なります。
以下、オーク樽に関するより詳細な知識をご紹介します。
オークには、たくさんの種が存在しますが、大きくレッドオークとホワイトオークの2つに分類できます。
オークには、チロース(Tylose)と呼ばれるゴム状の化合物が存在し、それが木の導管を塞ぐことで高い耐水性を持ちます。
そのチロースの量はオークの種類によって異なり、ホワイトオークはチロースが多く、レッドオークは少ない傾向があります。そのため、樽材にはチロースが多く耐水性の高いホワイトオークが使われています。
また、樽材として主に使われるホワイトオークの種類として、以下のケルカス属の3種が挙げられます。
学名:Quercus alba(ケルカス・アルバ)
北アメリカに多く自生するオークです。
チロースをより多く含み高い耐水性を持ちます。そのため、製材時に板目取りが可能で一本の木から使える部分が多く、ヨーロッパのオーク材に比べて値段が安い傾向があります。
また、アメリカンオークはヨーロッパのオークよりもタンニンが少なくヴァニラ香やココナッツ香が強い特徴があります。
アメリカンオーク製の樽は、スペインやアメリカ、オーストラリアなどで多く使用されています。
ヨーロッパで多く自生しているオークで、セシルオークとペドンキュラータオークの2種が多く使用されています。
アメリカンオークに比べて耐水性に欠き、製材の際は柾目取り(木の中心から放射状に板を取る)をする必要があります。そのため、アメリカンオークよりも歩留まりが悪く価格も高い傾向があります。
ヨーロピアンオークは、アメリカンオークよりもタンニンが多く、ヴァニラやココナッツの香りが穏やかな特徴があります。
学名:Quercus Petraea(ケルカス・ペトラエア) 、Q.Sessiliflora、Q. Sessilis
木目はより細かくタンニンの溶出は少なめ。
※木目が広い方がタンニンの溶出が多い
学名:Quercus robur(ケルカス・ロブ―ル)、Q.Pedunculata
イングリッシュオークやリム―ザンオークとも呼ばれる。
セシルオークよりも木目は広く、よりタニックに仕上がる。
ヨーロピアンオークの中で最も有名な産地はフランスです。
フランスの豊かで管理が行き届いた森林は、高い品質と商品価値を持つオークを生みます。
フランス内でも産地によってオークの特性が異なり、有名な産地にはトロンセ(Tronçais)、アリエ(Allier)、リム―ザン(Limousin)、ヌヴェール(Nevers)、ヴォージュ(Vosges)、ブルゴーニュ(Bourgogne)があります。通常は、これら産地の樽板を一定の割合で合わせて作られます。
フランス以外のオークの産地には、スロヴェニア(セルビア、ボスニア、クロアチアも含む)、ロシア、ハンガリーなどがあります。
オーク樽の品質は、上述のようなオークそのものの特徴に加え、シーズニング(乾燥)やトースティング(焦がし)の工程によっても変化します。
オークの丸太から板取りをした板材は、一定期間(一般的に2~3年)屋外に置いて天日で乾燥させます。この板材を乾燥させる工程をシーズニング(seasoning)と呼びます。
シーズニング中の雨や日光、気温の変化、カビなどの微生物の影響によって、木材に含まれるタンニンやクマリンなどの渋苦味成分が減少し、同時にオークに含まれる芳香物質が増えると言われています。
シーズニングの効果は行われる土地の気候によっても影響され、雨の少ない乾燥した土地ではフェノール類の減少などの効果が少なくなると言われています。
また、木材の乾燥は天日で行う他に、窯で人工的に乾燥させる方法もあります。この場合は、渋苦味成分の減少や芳香物質の生成は少ないため、ワインはより渋みや苦味が強くなり、香りの影響は穏やかになります。
樽造りでは、板材を曲げるときに熱の力(スチームや炎)を使い、仕上げに樽の内側を焦がします。
このトースティング作業によって、いわゆる樽の香りを特徴付けるヴァニリンやオイゲノールなどの芳香成分が生成されます。
トースト具合は顧客によって異なり(ライトトースト、ミディアムトースト、ヘヴィートーストなどと呼ばれる)、その度合いによってワインに与える香味の強さは変わります。
トーストが強いとロースト香が強くなる一方で、ワインが樽材に染み込みにくくなりタンニンの抽出が少なくなります。トーストが弱いと樽からのタンニンの抽出が多くなります。
上述のようなオーク樽の製造工程によって、オーク樽には様々な香味物質が含まれ、それがワインの品質に大きな影響を与えます。以下、それら樽由来の香味物質として代表的なものを記します。
オークラクトン(oaklactone)
オークの脂質に由来。オークの香りに代表される物質で、高い濃度になるとココナッツのような香りが感じられる。アメリカンオークに特に多く含まれる。オークラクトンには、シス異性体とトランス異性体があり、シス異性体はより香りが高く土や草の香りも持ち、トランス異性体はスパイスのニュアンスを加えるとされる。このシス型とトランス型の比率はシーズニングが影響する。
ヴァニリン(vanillin)
オークに含まれるリグニンが熱によって分解された物質。ヴァニラの香り。トーストによって量が増えるが、トーストが強すぎると減少する。また、樽発酵によって、酵母はヴァニリンを代謝し非芳香性の物質に変えためヴァニリンは減少する
揮発性フェノール
ヴァニリン同様にリグニンが分解されて出来る物質。オイゲノールeugenol(クローヴの香り)、グアイアコールguaiacol・4-メチルグアイアコール4-methylguaiacol(スモーク、焦げ臭、スパイス)、4-ヴィニルグアイアコール4-vinylguaiacol(カーネーション)などがある。
フルフラール(furfural)、マルトール(maltol)、シクロテン(cyclotene)
木に含まれる糖や炭水化物がローストされたことで生じる有機化合物。キャラメル、焼き菓子、アーモンド、コーヒーのような香り。
エラジタンニン(ellagitannin)
エラジタンニンはワインに骨格を与え、またアントシアニンと結合して色調を強くする。また、ワインの酸化を防ぎ、酸化還元のバランスを良好にする効果もある。
クマリン(Coumarin)
エラジタンニンと同様にオークに含まれるフェノール類で、ワインの色や骨格を強くする。クマリンには、苦味をもたらすグリコサイド(glycoside)と酸味をもたらすアグリコン(aglycone)とがあり、シーズニングによってグリコサイドからアグリコンに変化する。
ワインの発酵や熟成で使われる樽のサイズも、ワインのスタイルに影響を及ぼします。
小樽は、樽の影響を強く受け、酸化は早く進みます。
大樽は、樽の影響は穏やかで、酸化はよりゆっくり進みます。
代表的な樽のサイズと呼び名には下記のようなものがあります。
バリック(Barrique):225 L ボルドー地方で伝統的に使われている小樽。現在はボルドー以外でも世界的に広く使われている。
ピエス(Pièce):228 L ブルゴーニュ地方で使われている小樽。バリックよりも横に広い寸胴の形。容量は地域によって若干の違いがある。
トノー (Tonneau):900 L バリック4つ分(750mlボトル1200本=100ケース)の容量で、国際的なワインの取引に使われてきた単位
フードル(Foudre):大樽(多くの場合1000L前後からそれ以上) 主にアルザス地方で使われる呼び名
参考
・WINE SCIENCE The Application of Science in Winemaking / Jamie Goode
・The Oxford Companion to Wine / Jancis Robinson
・日本ソムリエ協会教本 2020