マサル・セレクションとクローン・セレクションとは?その違いやメリット・デメリット

最終更新日:2020/01/20  

 

「マサル・セレクション」「クローン・セレクション」というワイン用語があります。これらは、ブドウ樹の植樹、植え替えの計画に関する用語です。

 

この記事では、「マサル・セレクション」「クローン・セレクション」とは何なのか、そのメリット・デメリットを整理します。

 

 

クローンと突然変異

 

本題に入る前に、まずはクローンについて確認しておきましょう。

 

クローンとは、一つの個体(細胞)が無性生殖(体の一部から新しい個体をつくる)によって増えた個体群(細胞群)のことで、親と全く同じ遺伝子を持ちます。

 

ブドウ樹に関して言うと、通常、親木から取った枝を挿し木することでクローンをつくります。

 

挿し木とは、親木から取った枝を台木に接着させて苗木をつくることを言います。挿し木によって繁殖したブドウ樹は、基本的に親木と同じ遺伝子組成をもちます。つまり、クローンです。もちろん、ブドウを種から育てると有性生殖なのでクローンにはなりません。(種から育てると全く違うブドウ品種になります。例えば、シャルドネの種を育ててもシャルドネの株にはなりません。)

 

また、1つのブドウ品種にも様々な遺伝子組成が存在します。ブドウの遺伝子は環境の違いなどによって突然変異が起こることがあります。例えば、もとは同じクローンでも長い年月の中で微妙な突然変異が生じ、ブドウの成熟するスピード、ウィルスに対する耐性、ブドウの風味、色付きなどに違いが出てきます。より丈夫で優秀に変化するものもいれば、そうでないものもいます。

 

フランスなどの大きな国立研究機関では、優秀なクローンを選抜し、公認クローンとして番号を付けて識別しています(例えば、シャルドネ75番のように)。苗木屋さんで販売されているのは基本的に公認クローンです。

 

 

クローン・セレクションとは?

 

クローン・セレクションとは、1つの畑の区画を1つのクローンで統一する選抜方法です。

 

例えば、畑のある区画を植え替えるとき、その区画をすべてシャルドネ75番のクローンで統一するのがクローン・セレクションです。

 

クローン・セレクションによって、その区画のブドウはすべて同じスピードで育ち、同じ質のブドウが実ります。それによって収穫を同時に行えたり、安定的な醸造を行えるといったメリットがあります。

 

一方で、デメリットもあります。遺伝子の多様性がない故に、新種のウィルスや虫の害によって畑が全滅してしまったり、ワインの風味の単調化にもつながります。

 

 

マサル・セレクションとは?

 

畑を同じ種類のクローンで統一するクローン・セレクションに対し、1つの区画に複数の種類のクローンを存在させる選抜方法がマサル・セレクション(Massal Selection)です。セレクション・マサール(Sélection Massale)やマス・セレクション(Mass Selection)とも呼ばれます。

 

マサル・セレクションは、畑の個性と遺伝子多様性を大切にします。

 

植え替えは、苗木屋さんで買ったものではなく、その区画や周辺の区画で特に優秀に育っている株を複数選び、その穂木から行います。そして、長くマサル・セレクションを行い畑を育てていくことで、その土地に合ったクローンが生き残り、遺伝子多様性も複雑になり、より個性的な畑に成長していきます。

 

一方で、畑を管理するのに手間もかかります。

 

複数のクローンが一区画に存在するということは、それぞれ育ち方やブドウの収穫時期に差が生じる可能性が高く、より厳しい畑の観察やメンテナンスが必要になってきます。

 

また、穂木を取って移植するにしても必ずしもうまくいくわけではなく、思い通りに育たなかったり数年で枯れてしまうこともあります。苗木を購入するよりも改植作業により多くの労力がかかります。

 

マサル・セレクションのメリット・デメリットを整理すると下記のようになります。

 

 

 

メリット

・畑の個性が強まり、よりテロワールを表した複雑なワイン造りができる

 

デメリット

・複数のクローンが一区画に存在するということは、それぞれ育ち方や収穫時期が異なり、畑の管理により手間を要する

・研究機関で保証されたクローンではないので、必ずしも移植がうまくいくわけでなく、計画には不安定さと長い時間を要する

 

 

 

 

マサル・セレクションもクローン・セレクションもどちらが優れているとは言えない

 

現在、大半の生産者が選択しているのはクローン・セレクションです。

 

効率性を最優先に考えると当然のように感じます。

 

一方で、畑のオリジナリティや多様性に大きな価値をおくマサル・セレクションを行う生産者も増えているように感じます。

 

近年、サステナビリティ(持続可能性)や生物多様性という言葉もよく聞くようになりました。そういった流れから、ワインに関しても今後マサル・セレクションを見直す生産者が増えてくるかもしれません。

 

しかし、マサル・セレクションもクローン・セレクションも決してどちがら優れているとは言えません。より手間のかかるマサル・セレクションを行っていても畑の管理が疎かであったり適した株の選抜ができなければ良いワインは出来ません。その逆も然りです。

 

言うまでもなく重要なのは生産者が畑と真剣に向き合い自身の信念のもとに手間をかけてブドウを育てること。生産者の畑仕事に対する情熱、労力、センスはワインに必ず表れます。もし感動するようなワインに出会ったら、ぜひその生産者の畑仕事にも注目してみてください。何か新しい発見があるかもしれません。