最終更新日:2021/04/05
ビオディナミは、1924年にオーストリア人の科学者であり哲学者のルドルフ・シュタイナーが提唱した理論をもとに生まれた農法です。
ワイン生産者によるビオディナミ農法の導入は1980年代後半以降に大きく広がり、この頃のフランスではドメーヌ・ルフレーヴやドメーヌ・ルロア、シャプティエなど一流の生産者がビオディナミ農法への転換を行っています。
ビオディナミは化学肥料や農薬を使わない点ではオーガニック農法と同じですが、大きく以下の3点がこの農法を特徴付けます。
1.豊かな生態系を持つ持続可能な畑
2.プレパラシオンの散布
3.月と惑星の運行に基づいた作業スケジュール
ビオディナミ農法では、ブドウ樹だけでなく、その周辺の土や植物、微生物、虫、動物など畑全体の生態系を意識した農業が行われます。
例えば、動物は畑の雑草や虫を食べ、その糞を今度は虫や微生物が分解します。その堆肥となった有機物はさらに多くの虫や微生物を育み土壌を豊かにします。そして、最終的に土壌の有機物を微生物が無機栄養素に分解することでブドウ樹や植物の栄養となります。
このように、畑で多くの多様な生物が活動できる環境をつくることで、土壌が強くなり、畑全体の健康維持や病害虫に対する回復力、抵抗力を強めます。
そのため、ビオディナミ農法を行う生産者は、馬を使って土を耕したり、羊や鶏を畑に放して雑草や虫を食べさせたり、牛の糞を堆肥にしたり、動物と畑を積極的に関わらせます。
さらに、ブドウ樹の周りにあえて植物を育てたり残したりすることで畑に豊かな生態系を生み出します。
このような動物と植物の積極的な介入によって、畑全体の健全なバランスを保つ手法が採られます。
ビオディナミ農法では、プレパラシオンという独特の調剤を農薬の代わりに散布します。
プレパラシオンには下記の9種類存在します。
500:牛糞(スプレー)
牛の角に牛糞を詰め、土中で発酵。使用時は、それを水で薄めて土に散布。土壌の生物を豊かにし、土と植物の関係を強める。
501:水晶(スプレー)
牛の角に砕いた水晶を詰めて土中で寝かせる。水に溶かしてブドウ樹に散布。植物の光合成を強め、健全な成熟を導く。
502:ノコギリソウ(堆肥)
503:カモミール(堆肥)
504:イラクサ(堆肥)
505:オークの樹皮(堆肥)
506:タンポポの花(堆肥)
507:ヴァレリアン(堆肥)
502~507番の6種類のハーブは、それぞれ独特のプロセスを経たのちに堆肥に混ぜて畑に撒く。堆肥の質を高め土壌の生物を豊かにする。
508:ホーステール(スプレー)
お茶にして散布。カビ病を防ぐ。
また、上記のプレパラシオンを水に混ぜる際は、渦を巻くように一方向に混ぜた後、今度は逆方向に混ぜて渦をつくるように撹拌するような特殊な作業を行うことでその効力が増すとされています。
ビオディナミ農法では、月や惑星の運行サイクルと植物や動物の成長が強い関連を持つと考えます。
そのため、畑の重要な作業は、月と惑星の運行に基づいたカレンダーに沿って行われ、それにより、作業の効果がより高まるとされています。
また、ビオディナミのカレンダーには畑仕事だけでなく、ワインの瓶詰などセラーでの作業まで記されています。
現在、ビオディナミ農法を証明するいくつかの認証が存在します。代表的な認証として次の2つが挙げられます。
1927年にドイツのビオディナミを実践する生産者の協同組合から始まった認証機関で、1928年から認証プログラムが始まりました。
ビオディナミの認証機関としては最も大きく、長い歴史を持ちます。
デメターの認証を受けるには、栽培だけでなく醸造面でも厳しい基準をクリアする必要があります。
1995年にフランスで発足したビオディナミを実践する生産者の組合で独自の認証を持ちます。
組合のメンバーには、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティやドメーヌ ルフレーヴ、シャトー ポンテ・カネなど一流生産者が名を連ねます。
参考
・Biodynamic Principles and Practices/BIODYNAMIC ASSOCIATON(https://www.biodynamics.com/biodynamic-principles-and-practices)
・The Oxford Companion to Wine / Jancis Robinson