補酸 / 除酸

最終更新日:2021/05/04  

 

補酸とは、ワインの発酵前(あるいは発酵中、発酵後)に酒石酸などの酸を加える作業を指します。

 

温暖な気候の産地では、ブドウを十分成熟させることで酸が減り過ぎてしまうことがあります。このような酸の少ないブドウでワイン造りを行うと味わいのバランスが悪くなることに加え、腐造のリスクも高まります。そのため、ブドウの酸が減少しやすい温暖な産地では補酸が行われることも珍しくありません。

 

特に補酸が行われる産地として、南ヨーロッパ、オーストラリア、カリフォルニアなどがあります。

 

また、補酸は国ごとに法律によって規制されています。EUでは、温暖な特定の地域のみ補酸が許され、酒石酸の使用量も規制されています(酒石酸換算でワインには2.5g/l、ブドウ果汁には1.5g/lの上限)。

 

 

補酸の目的

 

補酸には以下のような目的、効果があります。

 

醸造中の微生物的な安定

酸が低く、高いpH下では、ワインの醸造中に良くない微生物が繁殖しワインに不快なフレーバーが生じるなどワイン汚染のリスクが高まります。

 

亜硫酸の効率を高める

酸が不足した果汁は微生物汚染のリスクが高まるため亜硫酸の添加がより必要になります。補酸によって醸造環境が整うことで亜硫酸の量を減らすことができます。

 

ワインの色を安定させる

ワインの色素成分(アントシアニン)はpHに大きく影響されます。pHが低い(酸が高い)ほど赤みが強くなり色も安定します。一方で、pHが高くなると青みが強くなり、色の安定性は低くなります。

 

味わいの調整

ワインに酸味を加えることで、バランスの取れたフレッシュな味わいに調整できます。

補酸は発酵後に行われることもありますが、発酵前に行う方がよりワインに酸が溶け込んだ自然な味わいになります。

 

 

補酸に使う酸の種類

 

一般的に、補酸には酒石酸が使われます。他に、リンゴ酸、クエン酸などが使われることもあります。

 

酒石酸は、成熟したブドウに含まれる有機酸です。主に発酵前に添加され、醸造の安定と自然な酸味を導きます。3つの有機酸の中で最も高価です。

EUでは、補酸は酒石酸のみ許可されています。

 

リンゴ酸は、未熟ブドウに多く含まれるシャープな酸味の有機酸です。主に醸造中の微生物的安定のために使われます。リンゴ酸は乳酸菌によって乳酸に分解されるため、減酸しやすい性質があります。

 

クエン酸は、柑橘フルーツに多く含まれる有機酸です。最も安価で、低価格帯のワインの補酸に使われます。クエン酸は酵母によって酢酸に代謝されるため、揮発酸が生じやすくなる性質があります。

 

 

除酸処理

 

上述の補酸とは逆に、過剰な酸を除去する除酸処理が行われることもあります。

 

除酸は、主に炭酸カルシウムを添加することでワインやブドウ果汁に含まれる酒石酸を結晶化し沈殿除去することで行います。

 

炭酸カルシウムは酒石酸と結合するため、リンゴ酸の除酸効果は低い性質があります。そのため、冷涼産地の極めて成熟度が低くリンゴ酸が酒石酸より多いブドウにおいては、これら物質を使うと酸のバランスが悪くなりシャープな酸味のリンゴ酸が一層際立ってしまいます。このような場合は、複塩の除酸剤を使い酒石酸とリンゴ酸の両方を沈殿除去するなどの方法がとられます。

 

除酸が行われる産地としては、ドイツやイギリス、ブルゴーニュ、カナダ、NY、タスマニア、ニュージーランド南部などがあります。

 

EUでは除酸についても規制がされており、特定の地域でのみ除酸が許可され、酒石酸換算1g/lの上限が設けられています。

 

 

参考

・The Oxford Companion to Wine / Jancis Robinson

・Official Journal of the European Union/Regulation 6.6.2008 (https://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2008:148:0001:0061:EN:PDF)