最終更新日:2021/05/02
補糖(ほとう)とは、発酵途中あるいは発酵前の果醪に糖分を加える作業を指し、フランス語で「シャプタリザシオン(Chaptalisation)」、英語で「シャプタリゼーション(Chaptalization)」と言います。
シャプタリザシオンという呼び名は、化学者でナポレオン1世統治下に内務大臣でもあったジャン・アントワーヌ・シャプタル(Jean Antoine Chaptal)の名前に由来します。彼は、補糖に関する研究を行い、ワイン醸造における補糖技術の普及に最も貢献した人物の一人です。
補糖で使われる砂糖は、テンサイやサトウキビ由来のショ糖が主に使われます。
また、砂糖ではなく濃縮マストや精留濃縮マストなどブドウ由来の糖を加えることもあります。
補糖は、主に以下の目的で行われます。
・ワインのアルコール度数を強化
・発酵時間を長引かせ、ワインの香味やテクスチャーを増大させる
基本的に、補糖は冷涼な気候でブドウの糖度が十分に上がらなかった場合に行われます。
ブドウの糖度が低いということは、生成されるアルコールの量も少なくなります。
それによってワインのボディが弱くなることに加え、醸造中の微生物的な環境が不安定になったり、ワイン法で規定された最低アルコール度数に届かないなどの恐れも生じます。
また、糖度が低いと発酵時間が短くなるため、赤ワインの場合は果皮からの香味成分の抽出が不十分になり、ワインの味わいが単調になってしまいがちです。
このように、補糖は糖度不足によるリスクを防ぐために行われる作業であり、ワインを甘くするための作業ではありません(補糖された糖分は全てアルコールに分解されます)。
補糖は多くの国で法律によって制限されています。
補糖が禁止されている国は、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、カリフォルニア、イタリア、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、南アフリカなどがあります。
ただし、これらの国でも濃縮マストの添加による糖の強化は許可されている場合があります。
一方で、補糖が許可されている国にはフランス(南仏の一部地域は禁止)、ドイツ(プレディカーツヴァインは禁止)、イギリス、カナダ、アメリカ北部(オレゴン、NYなど)、日本などがあります。それぞれ補糖量の上限は規定されており、その上限は地域やその年の気候、ワインの種類、ブドウ品種などによって異なります。EUでも気候によって区分した地域ごとに補糖量の上限が規定されています。
現在ヨーロッパ北部など冷涼産地では日常的に補糖は行われていますが、近年の地球温暖化によって気温は上昇し、ブドウの糖度は年々上がりやすくなっています。
また、消費者のワインの嗜好は以前よりライトでナチュラルなテイストに変化しています。
さらに、ブドウ栽培やワイン醸造の技術は進歩していますし、果汁の濃縮技術の発展や普及も進んでおり、補糖以外の糖度を上げる選択肢も増えています。
このような点からも補糖の必要性はこれからどんどん少なくなってくるとも予想できます。
参考
・The Oxford Companion to Wine / Jancis Robinson
・Official Journal of the European Union/Regulation 6.6.2008 (https://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2008:148:0001:0061:EN:PDF)