最終更新日:2021/03/23
ワイン製造において、果汁から水分の一部を人工的に除去して糖度や酸度を上げる濃縮作業が行われることがあります。
果汁を濃縮させる方法には大きく以下の3つの方法があります。
常圧下での水の沸点は100℃ですが、減圧することで水の沸点は下がります。
真空蒸発濃縮は、真空の減圧環境に果醪を置くことで、常温(約20℃)で果醪の水分を蒸発させる方法です(フリーズドライと同じ仕組み)。
高温で加熱する必要がないため、品質の劣化を最小限に抑えることができます。
ジュースの濃縮でも広く一般的に行われている方法です。
「クリオ・エクストラクション(Cryo-extraction)」は、収穫したブドウを房ごと氷点下(-5~-7℃以下)の冷凍庫で冷却し、凍ったブドウを圧搾することで果汁を濃縮させる方法です。これはアイスワインの圧搾法を人工的に行ったような方法とも言えます。
ブドウが凍結する温度はブドウの成熟度に依存します。よく熟した糖度の高いブドウほど凍結しにくく、未熟のブドウは比較的早く凍結します。
このように、糖度の低い果汁を凍結させることで、熟度の高いブドウの高糖度の果汁のみを取り出すことができます。
クリオエクストラクションは、甘口ワインの製造で主に使われる方法で、特に気候が不良でブドウの成熟度や健全度にバラつきがあるときに行われます。
またこの方法とは別に、ブドウではなく果汁を凍結させ、生じた氷を除去することで濃度を高める「冷凍果汁仕込」という方法もあります。日本ワイナリー協会では、この製法を使ったワインには上記製法名を表示することになっています。
逆浸透膜とは、水レベルの細かい分子以外は通さない微細な孔の開いた濾過膜の一種です(半透膜とも言う)。この逆浸透膜を使って果汁から水分を除く濃縮方法も近年増加しています。
そもそも浸透とは、溶液間に濃度の違いがあるときに濃度の低い方から高い方へ水が半透膜を通して移動する現象を言います。
逆浸透とは、浸透とは逆方向(濃い方から薄い方)に圧力をかけることで水が押し出される現象です。英語では「リバース・オズモーシス(Reverse osmosis)」と言います(下の動画を参照ください)。
実際に逆浸透膜のような目の細かいフィルターを使うと目詰まりが起こりそうですが、特殊な装置によって逆浸透膜と平行に果汁を流しながら圧力で水分を抜き取るため膜に大きな粒子が溜まることはありません。
逆浸透膜による濃縮は、真空蒸発濃縮のような熱による果汁のダメージもなく品質の変化が極めて少ない濃縮方法です。
さらに、逆浸透膜は、水だけでなくアルコールも通すため、ワインのアルコール濃度を減らすこともできます。
この場合、ワインからアルコール水溶液を抜き取り、その液体を蒸留してアルコールを除去した後、残った水がワインに戻されます。
この逆浸透膜によるアルコール濃度を下げる技術は、温暖化が進む中で今後さらに普及していくと考えられています。
以上のような人工的な濃縮は、天候が悪くブドウの糖度が上がらなかったり、収穫時の雨で果醪が薄まってしまった場合に有効です。
ただし、EUのワイン法では上記のような方法で果醪から水分を取り除ける量は20%が上限で、潜在アルコール度換算で2%を超えてはいけないと規定されています。
参考
・WINE SCIENCE The Application of Science in Winemaking / Jamie Goode
・The Oxford Companion to Wine / Jancis Robinson
・日本ソムリエ協会教本 2020