最終更新日:2021/03/11
主に白ワインに使われる「シュール・リー(Sur Lie)」と呼ばれる醸造法があります。
この記事では、シュール・リーとは何なのか、専門知識からワインの特徴まで徹底解説します。
シュール・リーとはフランス語で「澱の上」を意味します。
澱とは、発酵を終えたワインの濁りの原因である微細な浮遊物が沈殿したものです。
澱には、多糖類、ポリフェノール、酒石、タンパク質に加え、活動を終えた酵母が多く含まれています。
シュール・リーとは、その沈殿した澱の上でワインを一定期間熟成させる醸造法です。
多くの白ワインは通常、発酵終了後に出来るだけ早くワインから澱を取り除きます。
一方でシュール・リーは、あえて澱と長期間接触させます。それによって、ワインに複雑さが増し、触感が良くなります。
では、澱との熟成中にワインにはどのような変化が起こっているのでしょうか。より詳しく解説します。
上述の通り、澱には活動を終えた多くの酵母が含まれています。
それら酵母は、ワインとともに熟成するうちに酵母自らの酵素の作用で細胞が分解される自己分解が起こります。
そして、その自己分解によってアミノ酸や多糖類(マンノプロテイン)などがワインに溶け込みます。
アミノ酸はワインの味わいに複雑さを与え、多糖類はタンニンと結合しワインの渋みを減らしテクスチャーを柔らかくします。さらに、ワインの酸化を抑えたり色を安定させる効果もあります。
このように、澱とワインを長期間接触させることで、澱に含まれる酵母から様々な成分がワインに溶けだし、香味を複雑でまろやかにしてくれます。
上述の通り、シュール・リーは主にワインの香味に厚みや複雑さを持たせることが目的なため、シュール・リーは基本的にニュートラルな穏やかな香りで味わいもスッキリしたワインで使われます。
ブドウ品種では、ミュスカデや甲州、アルバリーニョなど酸味が強かったり渋み成分が多い品種でよく見られます。
シュール・リーで最も有名な産地はフランス・ロワール地方です。この地域のミュスカデAOC(Muscadet)では、収穫翌年の3月まで澱と共に熟成させれば「Sur Lie」とラベルに表記することができます。(ただし、ワインの新鮮味を保つために澱との接触は一冬に限られ、収穫翌年の11月30日までに瓶詰しなければいけません。)
このように、シュール・リーと表記されたワインは数か月から1年程度の間澱の上で熟成されており、ワインの香味には酵母のニュアンスが強く感じられます。
では、ワインに感じる酵母のニュアンスとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
これまでのまとめも含め整理します。
・イースト、パンドミ、トースト
・チーズ
まさにイーストそのものやパンの白い部分、芳ばしいトースト、チーズのような香りが感じられます。
・滑らかでクリーミーなテクスチャー
・ほのかなうま味とコク
上述の通り、特にワインの触感に厚みや柔らかさが加わります。
以上のように、澱との接触によってワインに様々な効果が生まれます。
シュール・リーは澱のニュアンスをワインに与える醸造法で有名ですが、シュール・リーの言葉が通常使われないワインにも澱とともに長く熟成させるものがあります。
例えば、シャンパーニュは瓶内で澱とともに1年以上熟成させます。その熟成から得られる香味はシュール・リー以上に複雑です。
また、ブルゴーニュのシャルドネのように小樽で発酵後にそのまま澱と共に数か月熟成させる白ワインも珍しくありません。
ぜひ澱とともに熟成させた様々なタイプのワインを楽しんでその魅力を感じてみてください。
参考
・日本ソムリエ協会教本 2020
・The Oxford Companion to Wine / Jancis Robinson
・Understanding Wine Technology / David Bird