ミュスカ / マスカット系

最終更新日:2021/03/09  

 

ミュスカ(Muscat)、モスカート(Moscato)、モスカテル(Moscatel)はどれも日本で言うマスカットを指しますが、世界ではさまざまなマスカット系の品種が栽培されています。

 

国によって異なる名前を持ち、種類も多いため混乱しがちな品種でもあります。

 

この記事では、そんな中から主要なマスカット系品種を整理し、その特徴や生産地、料理との相性など知っているとより楽しめる情報を解説します。

 

ミュスカとはどんなブドウ?

 

「ミュスカ」はフランス語読みでマスカットを指します。イタリアでは「モスカート」、スペインや南米では「モスカテル」と呼びます。

 

上述の通り、ワインに使われるマスカット系の品種は多く存在しますが、生産量の面から見ると次の3つの品種を理解することが重要です。

 

マスカット系の主要3品種 

1. ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン(Muscat Blanc à Petits Grains)

2. マスカット・オブ・アレキサンドリア(Muscat of Alexandria)

3.ミュスカ・オットネル(Muscat Ottonel)

以下、各品種の概要を解説します。

 

 

ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン

起源

ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン(以下ミュスカ・ブラン)の起源は不明ですが、上記3品種の中で最も古くから栽培されています。

ギリシャで誕生した後、イタリアに持ち込まれ、ローマ人が地中海沿岸の地域に広めたという説があります。

 

主産地

ミュスカ・ブランは、現在主にイタリアのピエモンテ州フランスのラングドック・ルーション地方、アルザス地方で多く栽培されています。

 

別名

ミュスカ・ブラン(Muscat Blanc)は国によって以下の名前で呼ばれています。

モスカート・ビアンコ(Moscato Bianco):イタリア

ミュスカ・ド・フロンティニャン(Muscat de Frontignan):南仏、南アフリカ

モスカテル・デ・グラノ・メヌード(Moscatel de Grano Menudo):スペイン

ゲルバー・ムスカテラー(Gelber Muskateller):ドイツ、オーストリア

 

突然変異種

ミュスカ・ブランには、果皮がピンクや黒に変色した突然変異種も存在します。

例えば、フランス・アルザス地方では「ミュスカ・ローズ・ア・プティ・グラン(Muscat Rose à Petits Grains)」と呼ばれる果皮がピンクのミュスカが栽培されています。アルザスではワインの表記において両者の区別はなく、どちらを使っても品種名は「ミュスカ(Muscat)」です。

 

ブドウの特性

名前にプティ・グラン(フランス語で小粒)とあるように、他のミュスカに比べて小粒です。

発芽は早く成熟は中生で比較的冷涼な産地でも成熟します。

アレキサンドリアよりも繊細で上品な甘みが感じられやすい特徴があります。

 

 

マスカット・オブ・アレキサンドリア

起源

マスカット・オブ・アレキサンドリア(Muscat of Alexandria)の起源は明確にされていませんが、南イタリアかギリシャと言われています。

DNAの解析によってミュスカ・ブランとAxina de Tres Bias (古い地中海地方の土着品種)の自然交配であると推測されています。

 

主産地

生産量は、スペイン(10,621ha/2018年)が圧倒的に高く、その他フランス(2,654ha/2014-15年)、オーストラリア(2,210ha/2015年)、南アフリカ(1,665ha/2018年)でも多く生産されています。

また、チリやアルゼンチンでもピスコという蒸留酒の原料として広く栽培されています。

 

別名

この品種は多くの場合、名前に「アレキサンドリア(Alexandrie仏/Alessandria伊/Alejandría西)」の文字が付きますが、例外として以下のような別名もあります。

ジビッボ(Zibibbo):イタリア・シチリア州

モスカテル・ビアンコ(Moscatel Bianco):スペイン、南米

マスカット・ゴルド・ブランコ(Muscat Gordo Blanco):オーストラリア

また、スペインでは単に「モスカテル(Moscatel)」のみの表記もアレキサンドリア種を指します。

 

ブドウの特性

比較的晩熟のブドウ品種で暑さを好みます。

房も粒も大きめです。

ミュスカ・ブランよりも大柄ではっきりした甘みが出やすい特徴があります。

 

 

ミュスカ・オットネル

起源

ミュスカ・オットネル(Muscat Ottonel)はフランス・ロワール地方原産で、19世紀半ばに広まった比較的新しいブドウ品種です。

DNA解析によって、シャスラ(Chasselas)と ミュスカ・ダイゼンシュタット(Muscat d’Eisenstadt)の交配種であるとされています。

 

主産地

ミュスカ・オットネルは、冷涼な産地で広く栽培されています。

特にブルガリアやルーマニアなど東ヨーロッパで多く栽培されていますが、フランス・アルザス地方でも栽培されています。

 

アルザス地方でミュスカ・オットネルはラベル表記上ミュスカ・ブランやその果皮色変異のミュスカ・ローズとの区別はなく、これらとのブレンドでも品種名表記は「ミュスカ」になります。しかし、ミュスカ・オットネルの単一ワインの場合「ミュスカ・オットネル」の品種表記が可能です。

 

ブドウの特性

上記3品種の中で最も早熟で冷涼な土地でも成熟します。

ミュスカ特有の華やかなアロマを持ちますが、個性は最も薄いと言われています。

 

 

ミュスカのワインの特徴

 

上述の通りいくつものミュスカ系品種がありますが、多くのワインに以下のような特徴が見られます。

 

 

ミュスカの外観

・イエローからゴールドの濃いめの色調

 

ワインのスタイルに幅があり、色合いも多様です。

しかし、甘口寄りのワインが多いため、濃い色調のワインが多い傾向があります。

 

 

ミュスカの香り

・マスカット、洋ナシ、白桃、マンダリンオレンジ

・白い花、バラ

 

マスカットの香りが分かりやすく感じられます。

さらに甘い洋ナシや桃の香りに白い花やオレンジピールの華やかさも強く感じられます。

 

 

ミュスカの味わい

・ドライで軽やかなタイプから甘く重いタイプまで

・甘く華やかなフレーバーで甘みも感じられやすい

 

ミュスカのワインは辛口から甘口、酒精強化など多様なスタイルのワインがありますが、大半のワインには甘みが感じられます。

 

しかし、ミュスカは甘みがあってもオイリーな印象は少なく軽く爽やかです。辛口のミュスカで特にその個性が感じられます。

 

アロマチックで軽やかなミュスカは、ワインを飲み慣れない人にも好まれやすい品種です。

 

 

ミュスカの生産地とスタイルの特徴

 

ミュスカの世界の産地の中で、特に代表的な産地をご紹介します。

 

フランス – アルザス地方

 

ミュスカを使った辛口白ワインで注目したい産地は、フランスアルザス地方です。

 

アルザスのミュスカワインには「ミュスカ・ブラン」「ミュスカ・ローズ」「ミュスカ・オットネル」の3つの品種を使用することができます。ラベル表記上はこれら3種のどれを使っても「Muscat」ですが、ミュスカ・オットネルのみ使用した場合は「Muscat Ottonel」と表記可能です。

 

アルザス地方でミュスカは高貴4品種のひとつとされ、グランクリュ(特級畑)でも栽培が認められています。

辛口から甘口までありますが、辛口の造りでも多くのワインには若干の甘みがあります。しかし、他のアルザス品種よりも軽く爽やかで上品さも感じられます。

 

 

フランス – ラングドック・ルーション地方

 

フランス南部のラングドック・ルーション地方はフランス最大のミュスカの産地です。

 

「ミュスカ・ブラン」と「マスカット・オヴ・アレキサンドリア」が栽培されています。栽培比率はミュスカ・ブランの方が多く、アレキサンドリアはスペインに近いエリアで栽培されています。

 

アルザス地方とは違いそのほとんどは天然甘口ワイン(ワインの発酵中にアルコールを添加し、発酵を止めることで天然の糖分を残したワイン)、リキュールワイン(ブドウ果汁にアルコールを添加し熟成させたもの)に使用されます。

有名なAOCワインには「ミュスカ・ド・リヴザルト(Muscat de Rivesaltes)」があり、ワインはアルコールや甘み豊かなリッチな味わいが特徴です。

 

 

スペイン

 

スペインでは「マスカット・オブ・アレキサンドリア」が断トツで多く栽培され、特に地中海地方や南部のアンダルシアで栽培が盛んです。スペインでは「モスカテル(Moscatel)」とも呼ばれます。

 

ワインのスタイルは南仏と同様に大半が天然甘口ワインや極甘口のシェリーなどの甘口タイプです。

 

食後酒として人気のあるシェリー「モスカテル(Moscatel)」は、過熟もしくは天日干ししたアレキサンドリア種を85%以上使用しています。アルコールは15~22%と高く、琥珀色よりも濃い色でトロリとした濃密な甘みがあります。

 

 

イタリア

 

イタリアはミュスカ・ブランの世界最大の産地で、その大半はイタリア北部・ピエモンテ州で栽培されています。イタリアでは「モスカート・ビアンコ(Moscato Bianco)」と呼ばれます。

 

モスカート・ビアンコを使ったワインで最も有名なのが「アスティ(Asti)」です。

 

アスティはモスカート・ビアンコを100%使用し、スパークリング、微発泡、辛口、甘口、極甘口など様々なスタイルがあります。

華やかなアロマに低いアルコールと優しい甘みが大変親しみやすく、日本でも多くのスーパーで見かけるほど人気があります。

 

 

ミュスカに合う料理 (相性・食べ合わせ)

 

軽く爽やかなミュスカには、サラダや生ハム、ディップのようなアペリティフ料理によく合います。

 

また、ミュスカには甘く華やかな香りの中にグリーンを思わせるニュアンスが感じられるため、グリーン系の野菜やフルーツとの相性もおすすめです。

 

特に春先に季節野菜を楽しむシチュエーションにピッタリです。

 

また、ミュスカワインは甘みが出やすいため、フルーツ系デザートやチーズにもよく合います。

 

軽めのワインにはフレッシュタイプやクリームチーズなどのクセの無いタイプ、濃厚なワインにはマンステールなどのウォッシュチーズやパルミジャーノのようなフルーティな香りのハードチーズ、ブルーチーズも良いでしょう。

 

ワインを楽しむ上で料理との相性ももちろん重要ですが、気持ちが明るくなるような華やかな香りのミュスカは楽しく賑やかな場や気分を盛り上げたいときにもぜひ選んでほしいブドウ品種です。

 

 

参考

・Wine Grapes: A Complete Guide to 1,368 Vine Varieties, Including Their Origins and Flavours / Jancis Robinson

・日本ソムリエ協会教本 2020

・The World Atlas of Wine 8th Edition/HughJohnson&JancisRobinson