最終更新日:2021/03/09
この記事では、テンプラニーリョ (Tempranillo)の特徴や生産地、料理との相性など知っているとより楽しめる情報を解説します。
テンプラニーリョは、スペイン原産の黒ブドウ品種です。
信頼性のある記録としてテンプラニーリョが確認できるのは19世紀に入ってからです。
テンプラニーリョの起源は、スペイン北部のリオハやナバーラであると推測されています。
テンプラニーリョは、「アルビーリョ・マヨール(Albillo Mayor)」と「ベネディクト(Benedicto)」を親に持つことがDNA鑑定によって明らかにされています。
テンプラニーリョの名前は、スペイン語の「temprano (早い)」に由来し、ブドウの早熟な特性からその名前が付いたと言われています。
名前の由来にもある通り、発芽も成熟も早い早熟タイプのブドウ品種です。
ブドウの果皮は薄く小粒でタンニンや色素成分を多く含みます。
温暖な産地のものは中心が黒みを帯びるほど濃いものもありますが、傾向として濃過ぎない色調が多いです。
・ブルーベリー、ブラックチェリー、プラム
・赤系果実ジャム ・スミレ
・鉄、黒い土、鉄観音 ・樹脂
・ヴァニラ、ココナッツ、丁子、リコリス、カカオ
・なめし革
黒果実を中心としながらも凝縮した赤果実の香りも感じられます。
また、香りに鉄っぽいニュアンスがあるのも特徴です。
テンプラニーリョのワインは、アメリカンオークで熟成されることが多く、香りにはヴァニラやココナッツ、スイートスパイス、樹脂などの甘くややコッテリした印象が感じられます。
長期熟成したワインも多く、熟成によってドライフルーツやなめし革、腐葉土の香りが現れます。
・アルコールはやや高めで果実味豊かな味わい
・酸味はやや高め
・甘いフレーバー
・タンニンは多いが緻密で滑らか
豊かな果実味と滑らかなタンニンが多くのワインで感じられます。程よい濃縮度と骨格がありながら心地よい飲み口でバランスに優れています。
テンプラニーリョのワインは、樽由来のヴァニラなどの甘いフレーバーがやや強めに感じられやすいのも特徴です。
テンプラニーリョの栽培面積が多い上位3国は以下の通りです。
1位 スペイン:202,862 ha (2019年7月発表)
2位 ポルトガル:20,884 ha (2017年)
3位 アルゼンチン:5,691 ha (2018年)
このように圧倒的にスペインの生産量が多いことがわかります。
スペインでテンプラニーリョは白ブドウのアイレンに次いで広く栽培されているブドウ品種です。
国内の広い地域で栽培され、各地で独自の呼び名があるのも特徴です。例えば以下のような別名があります。
テンプラニーリョ(Tempranillo):リオハ
ティント・フィノ(Tinto Fino)、ティント・デル・パイス(Tinto del País):リベラ・デル・ドゥエロ
センシベル(Cencibel):ラ・マンチャ
ウル・デ・リェブレ(Ull de Llebre):ペネデス、カタルーニャ
ティンタ・デ・トロ(Tinta de Toro):トロ
これらスペインの地域でテンプラニーリョの産地として特に有名なのが「リオハ (Rioja)」と「リベラ・デル・デゥエロ (Ribera del Duero)」です。
リオハは、マドリッドの北北東約250kmにあり、2000年以上前からワイン造りが行われていたとされる歴史ある産地です。
北と南西にそびえる山脈によって一年にわたって穏やかな気候が保たれ、ブドウの生育に適した環境です。
リオハが大きく発展したのは19世紀後半で、フィロキセラ禍によってフランスのブドウ畑が壊滅したことで、ボルドーのワイン商達が代替品を求めてリオハにやって来たことに始まります。このワイン商達によって高級ワインの醸造技術や設備がこの地にもたらされましました。
テンプラニーリョは、より冷涼なリオハ西部で多く栽培されており、このエリアのワインは酸とタンニンが豊富で長期熟成のポテンシャルを有します。
ワインは、オーク小樽で長期熟成させた複雑な香味をもつスタイルが多く見られます。
一方、リベラ・デル・ドゥエロは、マドリッドの北、リオハの南西に位置する産地で、ドゥエロ川に沿って東西に細長くブドウ畑が広がっています。
標高が850mのこの地では、昼夜の寒暖差が激しく、8~9月にはその差が20℃以上にもなります。そんな高地特有の気候が、豊かな酸と凝縮度の高いフルボディのワインを生みます。
リベラ・デル・ドゥエロは、1982年にはわずか24のワイナリーしか存在しない無名の産地でしたが、1990年代に大きく発展し、2018年にはワイナリー数は300以上にまで増加しています。
そのリベラ・デル・ドゥエロの発展を引っ張り続けている生産者が「ヴェガ・シシリア(Vega Sicilia)」で、そのワイン「アリオン(ALION)」や「ウニコ(UNICO)」は多くのワイン愛好家を魅了しています。
ポルトガルのワインにとっても、テンプラニーリョは代表的な存在で、国内で最も栽培されているブドウ品種です。
ポルトガルでは、テンプラニーリョを「アラゴネス (Aragonez)」や「ティンタ・ロリス (Tinta Roriz)」と呼びます。
凝縮感のあるフルボディのワインをはじめ、トゥーリガ・ナショナルなどの土着品種とともにポートワインの原料としても使われています。
テンプラニーリョは、スペインの代表的な品種であることからスペイン料理との相性は当然おすすめです。
例えば、生ハム、トリッパのトマト煮込み、パエリア、仔羊のロースト、マンチェゴチーズなどは王道です。
また、照り焼きソースを使った肉料理や八角の効いた豚の角煮、山椒を効かせた麻婆や担々麺などもワインの甘いヴァニラの香りや鉄のニャンスに調和します。
テンプラニーリョは甘い樽香が強く感じられるワインが多いため、甘いスパイスの香りと調和しそうな料理を選ぶのも一つのコツと言えるかもしれません。
参考
・Wine Grapes: A Complete Guide to 1,368 Vine Varieties, Including Their Origins and Flavours / Jancis Robinson
・日本ソムリエ協会教本 2020
・The World Atlas of Wine 8th Edition/Hugh Johnson&Jancis Robinson
・Genetic Origin of the Grapevine Cultivar Tempranillo/December 2012American Journal of Enology and Viticulture