最終更新日:2021/03/09
メルロは、凝縮感と柔らかいタンニンが特徴のワインを生み、世界でも特に人気があるブドウ品種です。
この記事では、メルロの特徴や生産地、合う料理など知っているとより楽しめる知識をご紹介します。
メルロ(Merlot)は、フランス・ボルドー地方原産の黒ブドウ品種です(最初の記録は1783-4年に「Merlau」の名で記されています)。
メルロは、父「カベルネ・フラン(Cabernet Franc)」と母「マグドレーヌ・ノワール・デ・シャラント(Magdeleine Noire des Charentes)」の自然交配で誕生したことがDNA鑑定で判明しています(2009年)。
メルロ(Merlot)の名前は、早く熟したブドウの実を摘みに来る鳥「Merle (黒ツグミ)」に由来します。
その名の由来の通り、メルロはブドウの成熟が早く、アルコールや甘みが表れやすいブドウ品種です。
果皮は薄く、柔らかなタンニンも特徴です。
土壌は粘土質のような水分や栄養分のある土壌が適しています。
栽培地は世界の広範囲に渡り、湿度への耐性も強いため日本でも上質なメルロが栽培されています。
メルロのワインの特徴を一言で表すと「凝縮感」です。
・濃い色調
・赤みの強い色調でオレンジのニュアンスも出やすい
多くのメルロワインには、凝縮した濃い色調が見られます。
若い状態のものは紫の色調も見られますが、熟成によって早い段階で落ち着いた赤に変化し、オレンジのニュアンスも出やすい特徴があります。
・ブルーベリー、ブラックベリー、カシス
・鉄 ・カカオ、ビターチョコレート
・黒い土 ・黒トリュフ
・なめし革 ・ミント
・スパイス(クローヴ、ヴァニラ、リコリス)
メルロワインは、凝縮したベリー系の香りが強く感じられます。
また、メルロの香りには鉄分を思わせるニュアンスがあるのも特徴です。特に、ボルドーのポムロール産のメルロに感じやすい傾向があります。
さらにメルロは、熟成に由来する土や黒トリュフ、キノコの香りも比較的早い段階で感じられます。
また、温暖な産地のメルロには、カカオや甘苦系スパイスの甘いニュアンスも顕著に表れます。
カベルネ・ソーヴィニヨンに比べるとグリーン系の香りは穏やかですが、成熟度が低いとミントやメントールの香りも感じられます。
・ヴォリューム感と凝縮した果実味
・穏やかな酸味
・タンニンの量は多いが渋みは穏やかで滑らかな触感
メルロは早熟で酸も少ないブドウ品種なので、アルコールは高く甘みも感じられやすい傾向があります。
タンニンは豊かで凝縮感がありますが、タンニンの触感は柔らかく、同じボルド―品種のカベルネ・ソーヴィニヨンと比較しても渋みは穏やかです。
肉付きのあるふくよかで広がりのある味わいが特徴です。
メルロは世界中で栽培されていますが、早熟なブドウであるため暑すぎない産地で冷たい粘土質の土壌に多く栽培されています。
以下、主要な産地とその特徴を解説します。
メルロの最大の産地はフランスです。
フランス国内でも最も多く栽培されているブドウ品種です。
その大半は、フランス南西部のボルドー地方、南西地方、ラングドック・ルーション地方で栽培されています。
ワインの品質の上で注目したいのは、やはりボルドー地方です。
ボルドー地方の大半の赤ワインは、メルロに「カベルネ・ソーヴィニヨン」「カベルネ・フラン」などの品種をブレンドして造られます。
いわゆる「ボルドーブレンド」と呼ばれるこの3品種の中で、メルロはヴォリューム感や甘みなど味に膨らみを与える役割を果たします。
また、ボルドー地方の中でも最高峰のメルロワインの産地が「ポムロール(Pomerol)」「サン・テミリオン(Saint-Émilion)」です。
この2つの地域は土壌に粘土質を多く含み、ボルドー地方の中でも特にメルロの栽培に適した地域です。
この地域の多くのワインは、メルロを主体にカベルネ・フランをブレンドして造られます。
サン・テミリオンのワインは他のボルドー地域よりも、アルコールが高く、凝縮感が強い傾向があります。
土壌には石灰質も多く含み、複雑な香味と力強さを併せ持ち、長期熟成も可能です。
熟成によって、ワインには黒トリュフや腐葉土など大変深みのある香りが現れます。
サン・テミリオンのワインには格付けも存在し、その格付けの最上位には「シャトー オーゾンヌ」「シャトー シュヴァル・ブラン」など計4つのシャトーが登録されています。
一方で、ポムロールには格付けは存在せず、生産者の規模もサン・テミリオンに比べて小規模です。
土壌は多様で石灰質はほとんど含まれません。
ワインのスタイルも多様ですが、サンテミリオンよりも軽くてフレッシュなスタイルが多い傾向があります。
しかし、粘土質に鉄分を多く含む重たい土壌から生まれるポムロールワインは、リッチで緻密で力強い長熟スタイルのワインが生まれます。その最上級のワインが「シャトーペトリュス」で、価格はメドックの5大シャトーを上回ります。
このような鉄分を多く含む粘土質の土壌から生まれるワインには、香りからも鉄のニュアンスが強く感じられます。
フランスに比べると少ないですが、イタリアでもメルロは多く栽培されています。
大半はイタリア中部から北の地域で栽培されており、主産地には北イタリアの「ヴェネト州」「フリウリ-ヴェネツィア・ジューリア州」そしてイタリア中部の「トスカーナ州」などがあります。
北イタリアのメルロは、土着品種とブレンドしたカジュアルでフレッシュなスタイルが多い傾向があります。
トスカーナ州のメルロも、サンジョヴェーゼなどの土着品種主体のワインにブレンドされますが、スタイルはよりヴォリューム感があり凝縮したスタイルが多く見られます。
特に、海岸部のボルゲリ(Bolgheri)やスヴェレート(Suvereto)などのエリアでは、カベルネ・ソーヴィニヨンなどボルドー品種とブレンドしたり、メルロ単一で造るパワフルかつエレガントなプレミアムワインも世界中で人気を集めています。
メルロは、ヨーロッパ以外にもアメリカ(カリフォルニア州、ワシントン州)、チリ、オーストラリアなどで広く栽培されています。
ワインは、より酸味が低く、高いアルコールと凝縮した果実味主体のまろやかなスタイルが多くなります。
香りには、ブルーベリージャムやカシスリキュール、チョコレートのような甘い香りが強く感じられる傾向があり、味わいにも甘みが感じらやすくなります。
また、オーストラリアやニュージーランドのメルロには、ユーカリやメントールのグリーン系の香りも強く感じられることがあります。
日本でもメルロのワインは生産されており、国内の品種別では黒ブドウで3番目に多く栽培されています(2018)。
その中で長野県は、メルロの国内生産の約半分を占めるほどメルロの栽培が積極的に行われています。
品質も世界的に注目される高さがあり、1989, 90年のリュブリアーナ国際ワインコンクールで桔梗ヶ原メルロ(メルシャン)が大金賞を連続受賞したことに始まり、その後も長野県のメルロワインは世界の数々のコンクールで高い評価を受けています。
長野県のメルロワインは、他国のメルロに比べて、アルコール度が低く、ジューシーで優しい印象が感じられます。
香りは凝縮感とともに清涼感もあり、ミントなどグリーン系のニュアンスもやや強い傾向があります。
メルロワインの高いヴォリューム感と凝縮感を受け止めるのは、肉料理が一番です。
メルロはタンニンの質感が柔らかいため、柔らかく煮込んだ肉料理や旨味や脂身の強い肉が特によく合います。
また、ラザニアのような肉をたっぷり使った濃厚なパスタ料理にもおすすめです。
さらに、メルロワインは熟成感も出やすいためチーズとの相性もおすすめです。
特に、カマンベールやブリーなどの白カビチーズにはキノコのニュアンスがあり、メルロワインの香りと同調します。
熟成が進んで黒トリュフの香りを纏ったメルロワインには、ぜひ白カビチーズも合わせてみてください。
メルロワインは、同じボルドー原産のカベルネ・ソーヴィニヨンに比べると魚料理との相性はやや劣ります。
メルロは、特に肉料理やチーズ、キノコなどに合わせるときに選びたいブドウ品種です。
参考
・Wine Grapes: A Complete Guide to 1,368 Vine Varieties, Including Their Origins and Flavours / Jancis Robinson
・日本ソムリエ協会教本 2020
・国内製造ワインの概況(平成30年度調査分)/国税庁