最終更新日:2021/03/09
ムールヴェードルはスペインや南フランスで多く栽培されている黒ブドウ品種です。
ちょっとマニアックなブドウ品種ですが、南仏やスペインの赤ワインをよく飲む人なら一度はこの品種のワインを飲んでいるはず。
この記事では、ムールヴェードルとはどんなブドウ品種なのか、ワインの特徴や生産地、料理との相性など知っておきたい基礎知識を解説します。
ムールヴェードル(Mourvèdre ) は、スペイン原産の黒ブドウ品種です。
原産地であるスペインでは「モナストレル(Monastrell)」とも呼ばれています。
モナストレルは、ラテン語で修道院を意味する「Monasteriellu」に由来し、14世紀後半には栽培されていた記録が残っています。
名前が修道院を意味するように、修道士によって栽培され始めたと言われています。
ムールヴェードル(Mourvèdre )の名前の由来は、当時この品種の主産地であったスペイン・バレンシア州の街「Morvedre (現サグント)」から来ています。
フランスには16世紀、この名前の由来となった街 Morvedreからプロヴァンスに伝わったと推測されています。
ムールヴェードルは、晩熟で成長がゆっくり進むブドウ品種です。
温暖で乾燥した気候と水はけの良い土壌を好み、よく熟すには強い日照が必要です。
産地は、スペイン、南フランスを中心に、カリフォルニア、オーストラリアでも多く栽培されています。
ムールヴェードル種を使った赤ワインには特徴として以下のような傾向があります。
・黒果実 (ブラックベリー、ブラックチェリー、プラム)
・スパイス (黒コショウ)
・ハーブ (タイム、ガリーグ、オリーヴ)
・肉、ジビエ
黒系果実のフルーツの香りの中に黒胡椒やドライハーブ系の複雑なニュアンスが感じられます。
また、南仏のバンドールやスペイン産のものには動物的な香りが明確に感じられるものもあります。
・アルコール度は高く果実味は豊か
・全体を引き締める力強い渋みが特徴
ムールヴェードルは、他の品種とブレンドされることの多いブドウ品種です。
ブレンドにおいては、特にグルナッシュ、シラーと相性が良く、この3種類のブレンドは、その頭文字を取って「GMS」(ブレンド比率によってGSMやSGMなど順番は変化)などと呼ばれ広く知られています。
ブレンドの中でムールヴェードルは、ワインに力強さと複雑さを与えます。
ムールヴェードルの産地は、原産国のスペインを始め世界中で栽培されています。
上述の通りムールヴェードルは、スペインでは「モナストレル」と呼ばれます。
モナストレルの生産量は、世界でスペインが最も多く、スペインの中でも現在4番目に栽培されている黒ブドウ品種です(43,000ha 2017OIVreport)。
原産国スペインでは、かつてグルナッシュに次いで栽培されていたブドウ品種でしたが、フィロキセラの蔓延をきっかけに他品種に植え替えが進み、近年は減少傾向にあります。
しかし、さすが原産国だけあって他国よりも樹齢の高い上質なモナストレルが栽培されています (コストパフォーマンスも高い)。
スペインの中心産地は、バレンシア州、ムルシア州、カタルーニャ州などの地中海地方、それに内陸部のカスティーリャ・ラ・マンチャ州です。
D.O.(原産地呼称)では、Alicante(アリカンテ)・Jumilla(フーミリャ)・Almansa(アルマンサ)などが有名です。
ワインのスタイルも幅広く、モナストレル100%で樽熟した濃厚なタイプから他品種とのブレンド、特殊な醸造技術で若飲みに仕上げたタイプもあります。
スペインに次ぐムールヴェードルの産地が南フランスです。
スペイン同様フィロキセラ禍によって栽培面積は減少しましたが、現在もプロヴァンス地方、南ローヌ地方、ラングドック・ルーション地方など南フランスの広い範囲で重要な役割を果たしています。
スペインに比べると、単一品種で仕上げたものは少なく、グルナッシュやシラーなどとブレンドしたワインが多い傾向にあります。
フランスで特に著名なムールヴェードルの産地に「Bandol(バンドール)」「Châteauneuf-du-Pape(シャトー・ヌフ・デュ・パプ)」があります。
特に、バンドールは、ムールヴェードル主体(50%~95%)のワインでフランスを代表する産地です。
長期熟成にも耐えうる力強さと香りに胡椒や肉などを感じる野性的な個性があります。
ムールヴェードルは、アメリカ・カリフォルニア州で19世紀頃から「Mataro(マタロ)」と言う名前で栽培されていました。
マタロはスペイン・バルセロナ近郊の「Mataró」という町の名前から来ています。
しかし、マタロがムールヴェードルと同一品種だと現地で広く認識され始めたのは1990年代になってからと言われています。
現在でもアメリカではマタロと呼ばれ、主にブレンド用品種として使用されています。
マタロを好む生産者として、Châteauneuf-du-Papeで有名なファミーユ・ぺラン(シャトー・ド・ボーカステル)がカリフォルニアで開いたワイナリーTablas Creek Vineyard(タブラス・クリーク・ヴィンヤード)が有名です。
マタロは、カリフォルニア以外にもワシントン州でも栽培されています。
ムールヴェードルは、オーストラリアでも19世紀頃から栽培されており、アメリカと同様にマタロと呼ばれます。
栽培面積は広くないですが、主にシラー、グルナッシュなどローヌ系品種とのブレンド用として使われています。
近年、オーストラリアのマタロも樹齢が高くなって品質が高まり、品種自体も再評価されています。
アメリカやオーストラリアのマタロは、スペインやフランス産のものに比べて胡椒や動物的なニュアンスは低い傾向があります。
ムールヴェードル種の濃厚な赤ワインには肉料理がおすすめです。
強いタンニンがあるので脂ののった肉から噛み応えのある赤身肉まで幅広く合わせられます。
牛肉や豚肉はもちろん、スパイシーな風味に合わせて仔羊、ジビエ料理にもよく合います。
特に、バンドールなど野性的なニュアンスの強いワインには、鹿肉などのジビエに胡椒を効かせた赤ワインソースがピッタリです。
基本的にムールヴェードルには、スパイスやハーブの印象があるので、料理にもタイムやローズマリーなどのハーブや胡椒やクミンなどのスパイスを効かせるとよりマッチします。
地中海沿岸の地域に多く栽培されていることを考えても、地中海風の味付けは最も無難なチョイスでしょう。
かつては、スペインや南フランスの広い範囲で栽培されていたムールヴェードルですが、近年はテンプラニーリョやグルナッシュ、カベルネソーヴィニヨンなどの品種に植え替えられ栽培面積は年々減少傾向にあります。
しかし、他の品種よりも成長が遅く、暑く乾燥した地域を好むムールヴェードルは、今後地球温暖化が進むことで栽培に適した産地が広がり、生産量が増える可能性もあります。
好樹齢のムールヴェードルからつくる高品質なワインや、マセラシオン・カルボニックという醸造テクニックでタンニンを柔らかくしてフルーティに仕上たワインなど、ワインのバリエーションも増えてきています。
ムールヴェードルは、今後どうなるのか楽しみなブドウ品種のひとつと言えるのではないでしょうか。
参考
・Wine Grapes: A Complete Guide to 1,368 Vine Varieties, Including Their Origins and Flavours / Jancis Robinson
・日本ソムリエ協会教本 2020