最終更新日:2021/03/09
ワインの白ブドウ品種で最も知名度と人気が高いのは「シャルドネ」でしょう。
しかし一方で、シャルドネ種のワインは特徴を表現しにくいワインでもあります。
ぜひこの記事でシャルドネの個性を知るヒントを押さえて、シャルドネのワインをこれまで以上に美味しく楽しみましょう。
シャルドネは、フランス・ブルゴーニュ地方原産の白ブドウ品種で、16世紀後半には栽培されていたとされています。
シャルドネ(chardonnay)という名前は、ブルゴーニュ・マコネ地区にある村の名前に由来します。
シャルドネは、気象条件や環境への順応性に富み、多くの場所で生育、成熟させることができます。
シャルドネワイン自体の品質に加え消費者の知名度や人気も上昇し、近年は世界中で地場の在来種をシャルドネに植え替えるケースも増えています。
そのため、現在は広く世界中で栽培され、多くの産地で高品質なシャルドネワインがつくられています。
シャルドネは、品種自体の風味の個性は薄く「個性がないところが個性」とも言われています。
生育環境による風味の変化に加え、樽発酵やオーク熟成、マロラクティック発酵などの醸造・熟成技術と相性が良く、生産者のスタイルもワインの特徴に大きく影響します。
以下、気候や醸造・熟成によってワインにどのような特徴が表れるのか解説します。
シャルドネ種のワインは、生育した気候条件や風土の違いによってワインの特徴が大きく変化します。
例えば、冷涼・温暖な気候の違いによって以下のように特徴が表れます。
外観
グリーンがかった淡いイエロー
香り
青りんご、レモン、ライム、石灰、火打石
味わい
豊かな酸味が基調になった引き締まった味わい
冷涼地域のシャルドネの香りは、りんごをベースに柑橘や石灰などの鉱物的なニュアンスが感じられます。
シャルドネは、基本的に酸味の強い品種のため冷涼地域のものはシャープな強い酸があります。
通常は、その酸を和らげるためマロラクテック発酵という醸造技術が使われます。
外観
濃いイエロー(ブドウの成熟度が上がるにつれて濃くなる)
香り
熟したリンゴ、洋ナシ、パイナップル、マンゴー
味わい
ブドウが成熟するにつれて酸味は穏やかになり、豊かな果実味が前面に感じられるようになる
温暖地域でブドウが成熟するほどワインの香りは甘いフルーツの印象に変化します。
味わいにも甘みを感じるほどの広がりが感じられます。
上記の通り、シャルドネは酸味が強かったり、香りにしてもそこまで華やかに感じる品種ではありません。
そのため、以下のような醸造技術や熟成によって風味に変化を付けるのが一般的です。
シャルドネの強い酸味を和らげるため、マロラクティック発酵という醸造技術が広く使われています。
マロラクティック発酵は、ワインの有機酸であるリンゴ酸を乳酸に変える発酵技術です。
それによって、シャープな酸味が柔らかい質感の酸味に変わります。
さらに、杏仁豆腐や発酵バター、ヨーグルトなどの乳製品系の香りが加わり、全体としてクリーミーな風味に感じられます。
ワインの香りや味わいに厚みを持たせるために、木樽で発酵や熟成させる方法も一般的です。
特に新樽を使用すると、ヴァニラやココナッツのような甘い香りやスモーキーな印象が加わります。
味わいにも樽からのわずかな苦味が加わりより複雑に感じられます。
シャルドネは酸が強い品種であるため、特に冷涼地域のものは長期熟成も可能です。
シャルドネのニュートラルな香りは熟成香との相性も良く、熟成によって魅力が増すことも多くあります。
熟成によって、香りにははちみつやナッツ、キノコのようなニュアンスが加わり、味わいも酸味が溶けこみ、よりバランスよく調和し、一体感が出てきます。
上で述べたように、シャルドネは世界中で広く栽培され、上質なシャルドネワインも挙げたらきりがありません。
世界中で素晴らしいシャルドネワインが生産されています。
そんな中からここでは、歴史的に押さえておきたい3つの産地をご紹介します。
シャルドネの原産地であり、シャルドネワインの最高峰と言っても間違いありません。
産地の特徴として、全体的に複雑、繊細、上品さが感じられます。
さらに、ブルゴーニュ地方のシャルドネ産地は縦に長く存在し、その村によって微妙に気候や土壌が異なります。
上述の通り、シャルドネは個性が薄くその育つ環境が素直にワインに表れるため、ブルゴーニュの中でも村や畑によって格や風味も異なるのが特徴です。
例えば、最も冷涼な「シャブリ」地区は、スリムなボデイでミネラリー、「ムルソー」は豊かなでどっしり、「ピュリニーモンラッシェ」は繊細でエレガント。
「モンラッシェ」という特級畑のワインは、世界で最も格の高い辛口白ワインです。
このように、それぞれの村や畑による香味の違いが、個々とても魅力的にワインに表れているところがブルゴーニュワインのすごいところです。
世界で最も上質なスパークリングワインの産地はシャンパーニュ地方でしょう。
そして、そのシャンパーニュにシャルドネは欠かせません。
シャンパーニュ地方は、シャルドネ産地の北限に位置します。
そんな冷涼な環境と特殊な白亜質土壌が、シャルドネに上質な酸味とミネラルを与え、シャンパーニュの品質の芯となっています。
ブルゴーニュと並んで上質なシャルドネを生む産地として有名なのが、アメリカのカルフォルニア州です。
1976年にフランス・パリで行われたブラインドによるワインの品評会で、名だたる高級フランスワインを制してカリフォルニアのワインが勝利した「パリスの審判」は世界的に知られています。
その試飲会の白ワインの部で1位に輝いたのが、カリフォルニア・ナパヴァレーのワイナリー「シャトー モンテレーナ」のシャルドネです。
そんなフランスと同等に評価されたカリフォルニアのシャルドネですが、ワインのスタイルはブルゴーニュのものとは大きく異なります。
香りは、熟した洋ナシなど甘いフルーツを基調に、樽によるクリーミーな甘い香りが重なります。
味わいも、ブルゴーニュ産よりも酸味やミネラルの印象が穏やかで、果実味がより全面に出たふくよかでリッチな味わいです。
酸味が低い分、熟成するよりも早飲みに適したスタイルが多いのが特徴です。
ただし、近年はカリフォルニアでもできるだけ冷涼な土地を選び、ブルゴーニュに近いスタイルでシャルドネを表現する生産者も増えています。
このように、シャルドネは産地によって個性を大きく変えるところも魅力なブドウ品種です。
フランスやアメリカの他にも、オーストラリアやニュージーランドのシャルドネも独特の個性があり、生産量、品質ともに高く評価されています。
スーパーでも多く見かけるチリやアルゼンチン、南アフリカのシャルドネもコストパフォーマンスが良くとても人気です。
日本のシャルドネも、まるでブルゴーニュのシャルドネを思わせるような深みと上品さを備えたものも増えています。
上述の通り、シャルドネはワインによってスタイルに大きな違いがあるため、料理も幅広く合わせられます。
料理を選ぶポイントの一つは、シャルドネのワインに多く見られる「乳製品系の香り」「樽香」「熟成」の度合いに注目することです。
上に述べたように、多くのシャルドネワインはマロラクティック発酵を行うことでバターのような風味が感じられます(特に冷涼産地のシャルドネ)。
ですので、料理にもバターやチーズなど乳製品の風味があるとワインによく合います。
また、シャルドネは木樽のスモーキーな香りを効かせたワインも多いため、軽くソテーやグリルして香ばしさを出した料理もおすすめです。
逆に、乳製品や樽のニュアンスの少ないシャルドネは、植物系の油を使った前菜や揚げ物料理も良いでしょう。
また、シャルドネは熟成によってナッツやキノコのニュアンスが出て味わいもまろやかになるため、そこに同調させた食べ合わせも考えられます。
ちなみに、牡蠣とシャブリの組み合わせはよく聞きますが、マロラクティック発酵で生じる乳酸は牡蠣の生臭みを強めるため、白ワインなら乳酸の少ないシャープな酸のスッキリなタイプが適しています。
シャルドネは、これまで見てきたように品種自体に際立った個性はありません。
香りや味わいに目立った特徴がなくニュートラルなため、料理とも合わせやすいブドウ品種です。
シャルドネワインを特徴づける重要なキーワードは「産地の気候」「マロラクティック発酵の有無」「樽香」「熟成」です。
それによって、どんな料理にも合わせられる懐の深さがシャルドネの魅力のひとつです。
ぜひいろいろな産地や生産者、熟成状態のシャルドネを試して品種の魅力を感じてみてください。
参考
・Wine Grapes: A Complete Guide to 1,368 Vine Varieties, Including Their Origins and Flavours / Jancis Robinson